ビジネスプランと1台の3Dプリンターから始まったザック・ハートリーさんの挑戦は、いまや治具や工具アクセサリーを製作・販売する利益性の高いビジネスへと成長しました。
現在、彼はカスタムアップグレードや複雑なシステムを備えた、70台のOriginal Prusa製3Dプリンターを運用するプリントファームを経営しています。
驚くべきことに、彼には工学の学位はありません。
ビジネスのバックグラウンドを持つザックさんは、知識の多くをオンラインや実践、そして数え切れないトライ&エラーの中で身につけてきました。
さらに、ファーム運営に必要な管理ソフトがなかったときには、なんとAIツールを使って一から自作してしまいました。
今回、そんなザックさんに直接お話を伺う貴重な機会を得ることができました。
そのストーリーは、きっとあなたも3Dプリンティングファームを始めてみたくなるはずです!
3Dプリンター未経験から始めたビジネスマン
3Dプリンターとの出会いはいつでしたか?
おそらく4〜5年前のことです。当時はAmazonで商品を販売していて、新しい商品アイデアを模索していました。あるとき、3Dプリントで作れそうな製品のアイデアが思い浮かんだんです。最初は、自分ではプリンターを持っていなかったので、他の人に製造をお願いしていました。試しに10〜15個販売してみたところ、問題なく売れていったんです。それで、その方から引き続き製品を仕入れてAmazonで販売を続けていました。
ですが、需要が増えてくると外注だけでは生産が追いつかなくなり、自分で初めてのPrusa製3Dプリンターを購入しました。
そこからは売上をすべて再投資するかたちで事業を拡大し、現在では70台以上のプリンターを稼働させるまでに成長しています。
初めて3Dプリンターを使ったときはどんな経験でしたか?すぐに使いこなせましたか?
私が初めて3Dプリントを体験したのは、Amazonで買った格安のプリンターがきっかけでした。正直に言って、かなり手こずりましたね。
ベッドは手動でレベリングしなければならず、フィラメントの扱いにも苦労しましたし、プリントそのものもかなり簡素化しないとうまく出力できませんでした。
なので、最初の体験は決してスムーズとは言えず、むしろ学びと試行錯誤の連続でした。
でもその過程で、プリンターの仕組みやトラブル時の対処法、修理の方法など、本当に多くのことを学べたと思います。
その経験があったからこそ、徐々にプリンターをアップグレードし、いまのように事業全体をスケールアップすることができたんです。
いまも仕事のためだけに使っている感じですか?それとも、何か楽しいものも作ったりしましたか?
はい、仕事以外でもプリンターでいろいろ遊んでいます!
本当にいろんなことに使っていて、例えばギターを3Dプリントしたり、NERF(ナーフ)ブラスターを作ったりもしました。
家の中や機材用のオーガナイザーもたくさんプリントしていますし、収納グッズやデコレーションなど、ちょっとしたものを作るのにも活用しています。
市販品を買う代わりに、「まずは3Dプリンターで作ってみよう」というのが我が家のスタイルになってきましたね。とにかく、できるだけプリンターをフル活用しています!
ご家族ともこの情熱を共有されていますか?
家族の中にも、3Dプリンティングへの情熱は確実にあります。
特に僕と兄はかなりハマっていて、それぞれPrusaのプリンターを持っているんです。
両親はそこまで詳しくはないんですが、できる限りサポートしてくれていますし、プリンターから何が出てくるのかを見るのをいつも楽しみにしてくれています。
なので、完全に「家族全員のプロジェクト」とまではいかないかもしれませんが、兄と僕を中心にしたファミリーぐるみの活動になっていますね。
これまでのご経歴についても少し教えてください。機械工学のご出身だったり、技術系のバックグラウンドをお持ちなのでしょうか?
私のバックグラウンドは、3Dプリントやエンジニアリング、技術系の分野とはまったく関係がありません。
大学ではビジネスを専攻していて、卒業後はワインやウイスキーの樽を再利用して、家具やインテリアにリメイクするビジネスを立ち上げ、北米全域で販売していました。
この経験を通じて、「ものづくりビジネスの立ち上げ方」や「製造業の運営の仕方」を学ぶことができたんです。そこが、今の自分の原点だと思っています。
その後、3Dプリントという技術に出会って、「これは製造の次の進化形だ」と感じました。
できるだけ多くの場面にこの技術を取り入れていくうちに、気づけば今では本業として成り立つビジネスにまで成長していました。
ビジネスはどのように始まったのでしょうか?偶然の流れでしたか?それとも、しっかりと練られたビジネスプランがあったのでしょうか?
どちらかというと、当初はしっかりとしたビジネスプランがあったというよりは、偶然から始まった感じですね。
いろいろな商品アイデアを試している中で、たまたまそのひとつが3Dプリントで作れるものだったんです。
でも、これが本当に理想的でした。というのも、3Dプリントならアイデアをすぐに試作して、低コストで市場に出すことができるので、コンセプト検証や商品開発にぴったりだったんです。
おかげで、ほとんどリソースがない状態でも、自宅からプロダクト開発のビジネスをスタートすることができました。
そして今では、数名のフルタイムスタッフとともに、本格的な事業として成長しています。
これらのプリンターの性能やメンテナンス、設計などについては、どこでどのように学ばれたのでしょうか?
メンテナンスや設計、プリントに関する部分は、間違いなく自分にとって大きなチャレンジでした。
メンテナンスに関する知識は、主にオンラインでの情報収集と、実際のトラブルに対応する中での試行錯誤から身につけてきました。
自分のプリントファームで発生した具体的な問題をひとつひとつ分析して、それに対処するための方法を考え、プリンターの稼働時間をできるだけ最大化するように取り組んでいます。
どの製品にどの設定や保守体制が合うかを見極めていく中で、時間をかけて「うまくいくこと・いかないこと」を蓄積していった感じです。
なので、メンテナンスに関しては、完全に現場での経験から学んできた部分が大きいですね。
設計の面は、また少し違ったアプローチを取っています。
僕にはエンジニアリングやデザインの専門的な知識はなく、ハイエンドなソフトを使った経験もあまりありません。
これまで自分で開発・設計してきた製品の多くは、Tinkercadのようなとてもシンプルなツールを使って組み立て、プロトタイプを作り、市場でテストしてきました。
デザインの精度を上げたいときや、より複雑な形状が必要なときは、専門知識を持つ人に相談することもありますが、
全体の90%くらいは、基本的なオンラインツールだけで自分で完結できています。
要するに、「完璧なツールより、手を動かして形にすること」が大事だと思っています。
具体的な数字で表現してみる
あなたのチャンネルやInstagramを見ていると、すべてが非常に綿密に計画されていて、きっちりと管理されているのが伝わってきます。
ビジネスを始めた当初、どのような期待を持っていましたか?
こうした計算や管理の仕方は後から学んでいったものなのでしょうか?
それとも、もともとそうした整然とした考え方が自然にできるタイプだったのでしょうか?
ビジネスにおける数字の考え方は、持続可能な成長と、プリンターで得た利益を事業に再投資してさらに拡大していくことが中心になっています。
以前の製造業のビジネスで、製品原価、流通、販売、マーケティングなどについての実務経験を積んでいたので、そこで学んだことを3Dプリントの分野にも応用しました。
だから、すべてが一からの学びではなく、これまでの経験をベースに組み立ててきたという感覚ですね。
ただし、フィラメントの消費量のように、これまでの経験ではカバーしきれなかった独自の要素もありました。
特にフィラメントに関しては、使い切ってしまってから気づく、いわゆる“痛い学び”を何度も経験しました。
その経験から、月ごとの使用量を記録・管理するスプレッドシートを作成し、
今後数ヶ月の需要を予測しながら、季節変動も加味して、いつ・どれだけ注文すべきかを計画するようにしました。
このシステムのおかげで、プリントファームが材料切れになるのを防ぐことができるようになりました。
実際、これは今までの運営の中でも大きな課題のひとつでした。
価格設定や利益の計算は、プリント時間をベースにしていましたか?どのようなアプローチだったのでしょうか? その方法にたどり着いた経緯も教えてください。
私がプリント製品の利益を考えるうえで重視しているのは、「プリント1時間あたりの利益」です。
各マシンが稼働している間に、最低でも1時間あたり2ドル以上の利益を出すことを目標にしています。
さらに、すべての製品において、オンライン販売時の最低限の粗利益率を30%以上に設定するようにしています。
つまり、目指しているのは「30%以上の粗利」と「1時間あたり2ドル以上の利益」を両立させることです。
この考えに至ったのは、プリント時間こそが自分のビジネスにおける最も重要なリソースであり、同時に最大の制約要因だからです。
そのため、プリント時間を軸にして、各プリンターがどれだけ効率的に稼働しているかを判断するようにしています。
言い換えれば、プリント時間が「インプット」、製品が「アウトプット」という考え方ですね。
もしある製品がこの基準(時間あたりの利益や粗利率)を満たさない場合、あるいは製品ライフサイクルの中で今後も満たせる見込みがないと判断した場合は、その製品は早めに販売を終了し、リソースを他の有望な製品に振り向けるようにしています。
このビジネスモデルは最初から意識していたものですか?それとも、運営していく中で自然と形成されていったのでしょうか?
最初のころは、1製品あたりの粗利益に注目して価格設定などを考えていました。
でも実際に運営してみると、プリント1時間あたりの粗利益がかなりバラついていることに気づいたんです。
あるときは1時間あたり50セントしか利益が出ない製品もあれば、別の製品では5ドルも出ることがある。
このとき、「利益率の低い製品を大量に売っても、プリンターは長時間稼働しているのに、結果としてあまり利益が出ない」という現実を痛感しました。
それがきっかけで考え方が変わり、「プリンターの稼働1時間あたりで、持続可能な利益が出ているかどうか」をしっかり見る必要があると気づいたんです。
それ以来、「プリント時間あたりの利益」を製品の成功指標や価格設定の重要な変数として取り入れるようになりました。
これから3Dプリントファームを始めたいと考えている人に、どんなアドバイスをされますか?そもそも、今から始めるのは良いアイデアだと思いますか?どのようにスタートすればよいでしょうか?そして、市場にはまだチャンスがあると思いますか?
3Dプリンターができることには本当に限りがありませんし、プリントファームを始めたいと考えている人にとって、今でも市場には十分なチャンスがあると思います。
素晴らしいのは、技術が進化するほどに、活用の幅がどんどん広がっていくことです。
Prusaのようなメーカーが開発を進めているような新技術のおかげで、私たちが対応できる市場や作れる製品の種類も日々増えています。
つまり、この業界自体がまだ成長段階にあり、今から始める価値は十分にあると感じています。
これから始めようとしている方や、始めたいと考えている方にとって、最も良いスタート方法は「まず1台のプリンターから始めること」です。
まずは製品をひとつ開発して、改良し、顧客からフィードバックを得て、市場との適合性(プロダクト・マーケット・フィット)があるかを確認します。
その製品を実際にプリントし、販売できることを確かめたら、そこからスケールアップしていきます。最初の売上で得た利益を使って、次のプリンターを購入し、事業を広げていくのが理想的なステップです。
この分野で成功する鍵は、「トラクション=動き出す製品やニーズのある課題を見つけること」。
プリンターを使ってそれを解決・提供できる製品を見つけたら、それを磨き上げ、強化し、拡大し、販売していくことが大切です。
まずは1台のプリンター(できればPrusa)から始めることをおすすめします。
そして、次のプリンターを購入する前に、製品が市場のニーズにしっかり合っている(プロダクト・マーケット・フィット)ことを確認することが重要です。
その状態さえ達成できれば、あとは1時間あたり数ドルの利益が出るような製品を見つけていくだけ。
そうなれば、プリントファームの拡大はとてもスムーズに進んでいきますよ。
3Dプリントでお金を稼ぐのは簡単ですか?
いいえ、3Dプリントでお金を稼ぐのは簡単ではありません。
でも、やり方次第で十分に実現可能なことだと思います。
重要なのは、「正しい課題を解決すること」です。
3Dプリント技術の可能性をよく理解した上で、「まだ解決されていない課題」や「既存の解決策を、3Dプリントでもっと良くできるもの」を見つけることが鍵になります。
収益化を目指すのであれば、誰かの問題を解決してあげることが一番の近道です。
たとえば、便利なオーガナイザーや道具、生活を少し楽にする製品など、相手にとって価値のあるものを提供できれば、3Dプリントにはいろいろな収益チャンスがあります。
コミュニティを築くこと、ノウハウを共有すること
コミュニティ作りにも取り組み始めていますよね。その背景にある思いや狙いは何でしょうか?そして、実際にやってみてどうですか?
私は、1台の3Dプリンターからビジネスやプリントファームへと発展させたい人たちのためのコミュニティを立ち上げました。
3Dプリンティングに情熱を持っている起業志向の人はたくさんいますが、
「どうやってビジネスとして成立させていくか」その具体的なステップが分からず、足踏みしてしまっている人も多いと感じていました。
そこで、プリンター1台から始めて、収益を生む副業や本格的な事業に育てていく方法を、仲間と共有・学び合える場を作ろうと思ったんです。
このコミュニティを通じて、参加者がそれぞれのペースでスキルを磨き、成長し、チャンスを広げていけたらと考えています。
現在、このコミュニティには120人以上のメンバーが参加してくれています。
すでにいくつかのメンバーは、自分のプリントファームを立ち上げて成長させていて、豊富なリソースやノウハウもどんどん蓄積されています。
これまでの取り組みはとても充実していて、多くの人の背中を押すことができました。
これからコミュニティ全体でどんな製品を生み出し、どんなリソースを共有していけるかが本当に楽しみです。
目指しているのは「みんなで大きく、より良く成長していくこと」なんです。
3Dプリント製品の市場は非常に大きく、しかも今も拡大を続けています。
技術が進化するたびに、活用の幅が広がり、市場もどんどん広がっていく。
私は、競争が激しいとか、もう飽和しているとはまったく思っていません。まだまだチャンスは無限にあると感じています。
このコミュニティを立ち上げた目的も、まさにその「次の一歩」を一人ひとりが踏み出し、ビジネスを成長させられるよう後押しすることでした。
あなたにとって「オープンソース」とはどういう意味を持っていますか?
私は技術的にものすごく詳しいわけではありませんが、Prusaが好きな理由のひとつは、ソフトウェアもプリンターも「理解できて」「アクセスできて」「自分でコントロールできる」ことです。
必要に応じて変更やカスタマイズができるというのは、私のように運用を最適化したい立場にとっては大きな魅力です。
私のプリントファームは非常に特化した構成で運営しているので、効率を高めるためにプリンターを細かく調整したり、自由に手を加えたりできる柔軟性が重要なんです。
そうした意味で、Prusaのオープンソースモデルは、自分で環境を作り上げていく自由とコントロールを与えてくれる存在だと思っています。
私にとってオープンソースとは、
「これがツールです。あとはあなたの好きなように使ってください——調整しても、いじっても、変えても、改善してもOKです」
という考え方そのものです。
私のような運用スタイルにおいて、これは本当に重要な要素です。
オープンソースだからこそ、出力の効率を上げたり、生産数を増やしたり、全体の利益を高めたりすることができるんです。
だからこそ、オープンソースはビジネスにとって非常に大きな、圧倒的なメリットだと感じています。
今後の展望や計画について教えてください。
現在、約70台の3Dプリンターを運用しており、今の施設にはさらに18台ほど追加できるスペースがあります。
今後3〜6ヶ月以内には、フィラメントやパレット、出荷製品などをしっかり保管できる倉庫付きの大きな施設を確保することを目標としています。
さらなる規模拡大に向けて、設備面でも準備を進めているところです。
また現在、プリントファーム全体を管理・コントロールするためのソフトウェアの開発にも取り組んでいます。
プリンターやフィラメントの管理はもちろん、実際にファーム内で処理されるジョブの流れまで一括で把握・最適化できるようにするのが目標です。
今後数ヶ月の計画としては、プリントファームの拡張と同時に、各プリンターの稼働効率・出力・生産性を最大限に高めることに注力していきます。
この2つのアプローチを軸に、ビジネスをさらに成長させていくつもりです。
プリントファームの運用方法とは?
プリントファームについて詳しく教えてください。どのくらいのスペースが必要で、どんな環境条件が求められますか?環境のコントロールはどのように行っていますか?
現在、私のプリントファームには70台のプリンターがあります。
そのほとんどがPrusa MK4またはMK4Sで、最近導入したCoreXY方式のPrusa CORE Oneが1台あります。これは今後の実験・検証のために追加したものです。
セットアップ自体は比較的シンプルで、標準的なカーゴラックに1ラックあたり9台のプリンターを配置しています。
それらのラックを約1,100平方フィート(約100㎡)の地下スペースに並べて運用しています。
必要な機材にアクセスしやすく、かつ効率的に動線が組めるよう、ラック配置には工夫をしています。
環境の管理については、冷風を送るファンとエアコンを使用し、同時に排気ファンで熱気を外に逃がすようにしています。
施設内には空気品質センサーと空気清浄機も数台設置していますが、運用自体はとてもシンプルです。
プリントされたパーツはそのままプリンターから取り外して箱に入れられ、
その箱から梱包・組み立て作業が行われ、すぐに出荷されます。
特に便利なのは、販売の多くをAmazon経由で行っているため、大量の在庫を抱える必要がないことです。
要するに、私のオペレーションは、約70台のプリンターが並ぶ巨大な壁と、数台の梱包テーブルで構成されていて、そこからすべてが出荷されていく仕組みになっています。
これまでで一番大きな課題は何でしたか?
大きな課題のひとつは、室内の温度管理です。
特にプリンターが70台も稼働していると、かなりの熱を発生します。
そのため、快適で安定した作業環境を維持するために温度をコントロールすることが非常に重要になります。
エアコンや排気ファンを使って対応していますが、それでも季節や稼働状況によって調整が必要で、思った以上に手間がかかるポイントのひとつです。
もうひとつ、今振り返って「もっと最初から違う形で対応すべきだった」と感じている大きな課題は、フィラメント保管スペースの確保です。
現在はパレット単位でフィラメントを仕入れているため、大量の箱を階段で上げ下ろしする作業が発生していて、効率的とは言えません。
より広い視点で言えば、ファーム内の物の流れを最適化することが、今後の大きなテーマだと考えています。
具体的には、フィラメントや備品がどう入荷されるか、プリンターへどうセットされるか、プリントされたパーツがどう回収・梱包・出荷されるか、といった一連のフローを、スペース・時間・労力・リソースのムダを最小限に抑えるよう再設計したいと考えています。
運用が拡大するほど、こうした「小さなムダ」が大きな差になっていくので、今後の重要な改善ポイントですね。
理想を言えば、フィラメントはパレット単位で搬入され、そのままプリンターのすぐ横に配置されるのがベストです。
そうすれば、作業者が簡単にフィラメントを補充でき、完成した製品をすぐに取り外して、そのまま梱包テーブルに持って行き、最終的な組み立てと出荷まで一気に流れるように作業できます。
次に移転を予定している新しい施設では、この一連の流れをできる限りシームレスで効率的なものにすることが目標です。
動線や作業工程を徹底的に最適化し、無駄のないスマートなプリントファームを実現したいと考えています。
プリントファームを支えている「ファーマー」(運用スタッフ)は何人いますか?
現在、私のプリントファームには2人のスタッフがいます。
1人は日中に勤務し、もう1人は夕方から週のほとんどの時間をカバーしてくれています。
この2人が中心となって、プリンターの操作やファーム全体の運用を担ってくれています。
もちろん、週末やどちらかが休みの日には、私自身がプリンターを管理し、ファームの運営を行っています。
少人数ながらも、効率的に回せる体制を整えているところです。
私は現在、販売・製品開発・パイプライン管理・ファームの改善プロジェクトを主な担当領域としています。
実際のプリント業務については、信頼できる2人の優秀なスタッフが日々の運用をしっかり回してくれているので、本当に助かっています。
そのおかげで、私は一歩引いた立場から、ビジネスの成長に集中できる体制が整っています。
具体的には、販売戦略や製品開発、パートナーシップ構築、高品質な素材の調達、コスト削減など、利益を最大化しながら事業全体を拡大させることをメインのミッションとしています。
最初は1台、2台、それとも3台から始めたのでしょうか?
実は、すべてのプリンターの購入日を記録したExcelシートを作って管理しています。
最初は1台からスタートしましたが、製品が売れ始めてプリントのキャパシティが足りなくなってきたのを実感し、
すぐに2台目・3台目を購入した記憶があります。
そこからは、得た利益をすべて再投資してプリンターを追加していきました。
結果として、プリントファームはかなり短期間で50〜60台規模まで急成長しました。
最近では、最後の20台を追加したあたりから、プリンターの増設ペースはやや緩やかになっています。
その理由は、現在の規模になると、単にプリンターを追加するよりも、既存のプリンターを最適化するほうが改善効果が大きいからです。
今は「プリンターを増やすこと」と「既存の運用を最適化すること」の両方にバランスよく注力しています。
初期のころは、1台買い足せばキャパシティが一気に50%、場合によっては100%も増えるようなインパクトがありました。
でも今では、新しいプリンターを1台導入しても、全体の出力はせいぜい1〜2%増えるだけです。
そのため最近は、ファイルサイズやモデルを効率的に調整する、ソフトウェアで稼働時間を最大化する、といった工夫のほうが、1〜2台のプリンターを追加する以上に、全体の生産性に与える影響が大きいと感じています。
現在は、プリントファームと既存のオペレーションをより効率化することと、将来的なスケールアップに向けてプリンターを増やしていくことのバランスを取るフェーズに入っています。
ただし、今の施設ではスペースや空気の流れ(排熱・換気)に制約があるため、そういった点も慎重に考慮する必要があります。
無理に台数を増やすのではなく、効率と環境の最適なバランスを保ちながら拡張していくことが重要だと考えています。
すべてが数字に基づいて動いているように聞こえますが、やはりあらゆることを数値で管理されているのでしょうか?
はい、もちろんです。
3Dプリントの素晴らしいところ、そして私がこのビジネスを本当に気に入っている理由のひとつは、すべてがデータドリブンであるという点です。
たとえば、ひとつの製品に必要なフィラメントの量、プリントにかかる正確な時間、コスト――すべてが数値で明確に把握できるんです。
以前のビジネスでは、人の手で最終製品を仕上げる一般的な製造工程だったので、人によるばらつきが大きく、常に一定とは限らない部分が多くありました。
でも3Dプリントは、正確さと再現性が高く、すべてがコントロールしやすい。それが、このビジネスの大きな魅力だと思っています。
ビジネスの視点で見ると、3Dプリントは本当に素晴らしいです。
というのも、Excelシートさえあれば、ビジネス全体の流れをマッピングできて、3ヶ月後、6ヶ月後、9ヶ月後に自分がどこにいるかを正確に予測できるからです。
フィラメントの在庫状況、キャッシュの流れ、売上の見通しなど、すべてを数値で把握できるので、将来の展開に対しても自信を持って計画的な判断ができるんです。
たとえば、新しい設備の購入や大量のフィラメントの発注といった、大きな投資にもリスクを計算したうえで踏み切れるのは、この数値的な予測力があるからこそです。
このビジネスの何より素晴らしいところは、ほぼすべての要素に「数字」がつけられること。
ばらつきや不確定要素が少ない分、コントロールしやすく、精度の高い意思決定ができる。
私はそこにとても魅力を感じていますし、この仕組みが本当に好きなんです。
起業家として、このビジネスは本当に魅力的です。
たった1台のプリンターを使って、1時間あたり2ドルの利益を出せたとします。
それを1日20時間稼働させれば1日40ドル。それを10日、20日、30日と繰り返せば、次のプリンターを買うための資金がすぐに貯まります。
このように、ビジネスの仕組みが非常にシンプルな数学で成り立っているのが魅力なんです。
台数が増えてくると、スケールの楽しさや、1年後の予測が数字で見えてくる。
その過程が本当に楽しくて、私がこのビジネスを心から好きだと感じる理由のひとつです。
3Dプリントビジネスの中で、これまでに取った中で最も大きなリスクは何でしたか?
3Dプリントビジネスにおけるリスクという点で言うと、実はそこもこの分野の非常に素晴らしいところなんです。
現在では70台以上のプリンターを運用し、かなりの売上規模に成長していますが、実際のビジネスリスクはほとんどありませんでした。
リスクがあったとすれば、初期段階での個人的なリスクですね。
というのも、これまでの成長はすべて利益を再投資することで実現しており、借金やローン、外部投資家の支援は一切受けていません。
つまり、無理のない形で着実かつ収益性のある成長をしてきたため、ビジネスとしてのリスクは大きく抑えることができたんです。
この「自力で責任あるスケールアップ」が、結果として安定した事業運営と低リスク化につながっています。
3Dプリントビジネスにおける本質的なリスクというのは、自分の時間やプリンター1台のコストを除けば、実はそれほど大きなものではありません。
リスクが大きく感じられがちですが、きちんと段階を踏めば非常に堅実に進められるビジネスです。
現在の私にとっての最大のリスクは、むしろ運用面でのリスクです。
たとえば、大量のフィラメントを仕入れた際に納期が遅れたり、数量・品質に問題があったりするケースですね。
でも、正直なところ——
1台のプリンターから始めて、プロダクト・マーケット・フィットを見極め、無理のない形でスケールしていけば、重大なリスクを伴うようなビジネスではないと思っています。
むしろ、しっかり管理すれば非常に再現性が高く、低リスクで拡大していけるモデルだと感じています。
3Dプリントビジネスにおける本当のリスクは、例えばまだ売上の見込みが立っていない段階で、借金やローン、外部投資を受けて一気に20台のプリンターを購入してしまうようなケースにあります。
ですが、責任ある運用ができていて、誰かの“実際の課題”をきちんと解決している製品を提供していれば、リスクは大きく抑えられるはずです。
3Dプリントの強みは、あらゆる要素に数値を紐づけられること。
そのため、将来的なトラブルや課題も、ある程度予測しながら経営判断ができるんです。
たとえば、モーターが壊れたり、ノズルが摩耗したりしても、修理コストは通常10〜30ドル程度で済み、すぐに復旧可能です。つまり、自分のスキルレベルや事業規模に見合ったペースで、責任を持って運営していけば、大きな金銭的リスクはほとんど発生しないのが、このビジネスの魅力です。
新しいプリンターをプリントファームに導入する際のセットアッププロセスは、どのように行っていますか?
新しい3Dプリンターを導入する際には、自分のファームの運用に合わせていくつか小さなカスタマイズを行っています。
私のファームでは、使う色は黒のみ、素材はPETGのみと決めています。
また、扱っている製品は細かいディテールが少ないため、0.8mmの大口径ノズルを使用しています。
なので、新しいプリンターが届いたら、まず最初に行うのがノズルの交換(0.8mmへの変更)です。
このように、用途を限定し、効率化を優先した仕様に統一することで、全体の運用をシンプルかつ高速に保てるようにしています。
また、私は1kgや3kgではなく、5kgのフィラメントロールを使用してプリントしています。そのため、フィラメントの供給方法にも調整が必要になります。
この対応として、自分たちでカスタムのホルダーや供給システムを開発しました。
これにより、大きなロールでも安定してスムーズにプリンターにフィラメントを供給できるようになっています。
こうしたカスタマイズによって、ロール交換の頻度を減らし、プリンターの稼働率を最大限に引き上げることができています。
ノズルの交換とフィラメント供給のセットアップが完了したら、次のステップは使用している管理ソフトウェアにプリンターを接続することです。
これにより、すべてのプリンターを中央のダッシュボードから一括管理でき、ジョブの送信やプリントの進行状況もまとめてコントロールできるようになります。
ノズルの取り付け → フィラメントの準備 → ソフトウェアへの接続、という流れが終われば、そのプリンターはファームに完全に統合され、数クリックでジョブを受け付けられる状態になります。
箱から出してからすべての準備が整うまでにかかる時間は、おおよそ10分程度です。
このように、セットアップの迅速さと統一された運用フローが、ファーム全体の効率性を支えています。
これらの変更を加えることで、標準設定や1kgロール、0.4mmノズルを使う場合と比べて、私のプリントファームははるかに高速で製品を生産できるようになります。
私たちが扱っている製品はやや大きめで、細かいディテールが少ないため、
このような特定のカスタマイズ(0.8mmノズルや5kgロールなど)を行うことで、プリント時間を短縮し、生産効率を最大化しています。
その結果として、1製品あたりの粗利益と、プリント1時間あたりの利益の両方を最大化できているんです。
この最適化が、ファーム全体の収益性を支える大きなポイントになっています。
これまでにどれくらいの機種を試されてきましたか?そして、なぜ最終的にPrusaを選んだのでしょうか?
プリントファームを始める際には、まず市場に出ているさまざまな3Dプリンターを調査しました。
その中でPrusaを選んだ最大の理由は、「長く使える信頼性の高いプリンター」を求めていたからです。
部品を頻繁に交換したり、数年ごとに新しいプリンターを買い替えたりするような運用は避けたかったんです。
だからこそ、長期間にわたって安定して稼働してくれる“タフな相棒が必要でした。
その点で、Prusaのプリンターはまさに理想的な選択肢でした。
さまざまな選択肢を比較していく中で、Prusaはオープンソースの思想と、全体的なアプローチにおいて「信頼性」を非常に重視していることがよく分かりました。
そして何よりも魅力的だったのが、万が一不具合やトラブルが起きた際の「修理のしやすさ」です。必要なパーツが簡単に入手でき、交換やメンテナンスが自分でスムーズに行えるという点は、私のように多数のプリンターを運用する立場からすると非常に大きなメリットでした。
それに加えて、Prusaがヨーロッパで製造されていることや、素晴らしいストーリーと背景を持っていることにも強く惹かれました。
Prusaは3Dプリンティングの歴史において非常に重要な存在であり、この業界そのものを築き、コンシューマー向けの革命を起こした立役者だと思っています。
そんなブランドの一員として関われることに、誇りと共感を感じましたし、「自分もそのムーブメントの一部になりたい」と思えたのが、Prusaを選んだ決定的な理由のひとつです。
私がプリントファームのプリンターを選ぶうえで、最も重要視したのは「信頼性」、そして次に重視したのが**「修理のしやすさ」**でした。
そして、Prusaプリンターで私が特に気に入っている最後のポイントは、「アップグレードの柔軟性」です。
最初に導入した12〜15台はPrusa MK3S+でしたが、それらはすべてMK4Sにアップグレードしています。
これは、プリンターを丸ごと買い替えるのではなく、比較的少ない投資で性能を最新化できるという、非常に大きなアドバンテージです。
中には3〜4年前に導入したプリンターもありますが、適切なアップグレード・メンテナンス・修理を通じて、今でも新品同様に稼働しています。
こうした柔軟な設計思想やサポート体制があるからこそ、Prusaのプリンターは長期的な運用に本当に向いていると実感しています。
プリントファームの運用において、どれくらいの頻度でメンテナンスが必要になりますか?
プリントファームでは、2段階のメンテナンス体制を設けています。
まずひとつ目が、定期的かつしっかりと行うルーティンメンテナンスです。
私は現在、1ラックに9台のプリンターを設置したラックが8つあり、さらに数台の補助プリンターも運用しています。
このうち、毎週1ラック分(=9台)を対象にメンテナンスを実施しています。内容は以下のとおりです:
・プリンター本体の清掃
・ノズルの状態チェック
・PTFEチューブの交換
・マシン全体の拭き取り・クリーニング
・各ベアリング・ロッドへのグリス塗布
・ベルトの張り具合調整・締め直し
・その後、フルキャリブレーションの実施
これにより、すべてのプリンターが約2ヶ月ごとにこの詳細メンテナンスを受けるサイクルになっています。
安定稼働を維持し、トラブルを未然に防ぐための重要な工程です。
2つ目のメンテナンスレベルは、より簡易で頻度の高いチェック作業です。
こちらは2〜3日に一度のペースで行っています。
具体的には:
・全プリンターのノズルを清掃・ブラッシング
・シリコンソックに焦げやフィラメントの残留物がないか確認
・ロッドの端にゴミや削れがたまっていないかをチェック
・全体的にプリンターが清潔かつ正常に動作する状態かを目視確認
こうしたこまめな点検によって、定期的に行う大がかりなメンテナンスの合間でも、問題が発生するのを未然に防ぐことができます。
結果として、プリンターの安定稼働と長寿命化につながっています。
つまりこのように、数日に一度の簡易的なチェック&クリーニングと、毎週1ラック分のプリンターに対する詳細なメンテナンスと再キャリブレーションを組み合わせた運用になっています。
プリント成功率はどのくらいですか?
正確に記録はしていませんが、製品によって若干の違いはあるものの、成功率はおそらく90〜95%の間だと思います。
アイテムごとの仕様や形状によって変動しますが、概ねこの範囲に収まっています。
電気代や電力消費は問題になっていますか?
3Dプリントファームにおける電力消費については、多くの人が想像するほど高くありません。
現在70台のプリンターを稼働させていますが、月あたりの電気代は数百ドル程度です。
正確な数字を出すのは少し難しいのですが(電力会社の基本料金や、家庭でビットコインのマイニングも行っているため)、1台あたりの電気代はおおよそ1時間で1.5〜2セント程度だと考えています。
つまり、非常に効率的で低コストな運用が可能というのが、3Dプリントの大きなメリットのひとつです。
プリンターの台数が20〜30台に達したあたりで、自宅の電力供給を200アンペアのブレーカーにアップグレードしました。
この対応によって、物理的に家に設置できる範囲であれば、電力面での制限なくプリンターを増設できる環境が整いました。
つまり現在は、電力供給がボトルネックになることはほとんどなく、拡張の自由度がかなり高い状態です。
私が痛感した注意点のひとつは、回路の過負荷です。
同じ回路にプリンターを詰め込みすぎると、簡単にブレーカーが落ちてしまうんです。
その解決策として、電気工事士に依頼して、各セクションごとに専用回路を引いてもらいました。
たとえば、私のプリントファームには8つのプリンタラックがありますが、それぞれのラックごとに専用の電源回路を設けています。
この構成にしてからは、すべてのプリンターを同時に起動しても問題なく安定稼働できるようになり、電力トラブルを完全に回避できています。
つまり、電気に関して重要なのは「ランニングコスト」よりも「最初の設備投資」です。プリントにかかる電気代そのものは非常に安く、製品に対するコスト比で見ればごくわずかです。
ただし、プリンターを安定して稼働させるための電気設備の構築——たとえば専用回路の導入やブレーカーの強化など——は、初期段階では最も難しく、場合によっては最もコストがかかる部分になる可能性があります。
適切な電源環境を整えることが、大規模プリントファームの土台として非常に重要なんです。
Prusa CORE Oneについてどう感じていますか?
プリントファームにおけるCORE Oneの運用についてですが、現時点ではまだメインの生産工程には完全に統合していません。
現在稼働しているMK4が70台あり、生産用として非常に安定して高効率に機能しているためです。
CORE Oneは主に、製品写真の撮影用、
高精細なプロトタイプの開発・テスト、
フィットテスト(既存の製品やパーツとぴったり合うか確認する用途)、といった目的で使用しています。
そのため、今のところCORE Oneはフルスケールの量産というよりは、試作・開発・可視化用途として活躍しているポジションです。
CORE Oneは非常に優れたプリンターだと思いますし、もし70台のCORE Oneで構成されたファームがあれば、それはもう圧巻の光景になるでしょう。
ただ、現時点では私はベッドスリンガー方式(MK4Sのような前後にベッドが動くタイプ)にかなりコミットしている状況です。
というのも、今の私の運用スタイルにおいては、MK4Sが非常に安定して良い結果を出してくれているからです。
さらに将来的には、プリント完了後に自動でパーツを排出できるようなオートメーション化も考えています。
その点でも、ベッドスリンガータイプのほうが私のファーム構成には適していると感じているんです。
現在のプリントファームにおける自動化の状況はどのようなものですか?遠隔操作やモニタリングなど、何か導入されている機能はありますか?
プリンターの自動化やコントロールに関しては、自分で開発したソフトウェアを使っています。
このソフトはプリントファーム内のすべてのプリンターに接続でき、中央から一括で操作やジョブの送信が可能です。
そしてそのソフトウェアは一般公開もしており、他の人も利用できるようになっています。
この仕組みによって、ファーム全体の管理が非常に効率化され、手作業でのプリンター操作を大幅に減らすことができています。
たとえば、現在の私のプリントファームでは、毎週月曜日に在庫レポートを作成し、「何をプリントする必要があるか」を確認します。
その情報を自作のソフトウェアに入力すると、すべての空いているプリンターに自動でジョブが割り当てられる仕組みになっています。
プリンターは自動的にプリントを開始し、完了後には従業員が70台すべてのプリンターからパーツを取り外します。
その後、ボタンを1回クリックするだけで、すべてのプリンターを「スタンバイ状態」にリセットできるようになっており、ソフトウェアが再びジョブを各プリンターに配信し、キューが空になるまでこのプロセスを繰り返します。
このシステムにより、非常に高い効率でファームを運用できるだけでなく、
従業員のトレーニングも簡単です。主な業務は「パーツの取り外し」「プリンターのリセット」「梱包・出荷」だけなので、短時間で戦力化できます。
現在取り組んでいるのは、プリント完了時にカスタムGコードを送信し、自動で次のジョブに移行できる仕組みの追加です。
具体的には、プリントが終了したタイミングで、ソフトウェアがプリンターに専用のGコードを送信し、
完成したパーツを押し出して回収用のボックスに落とすよう指示を出します。
その後、自動で「スタンバイ状態」にリセットされ、次のプリントジョブを受け取る準備が整う、という流れです。
この機能によって、全70台のプリンターが「プリント → 排出 → 再スタート」を自動で繰り返すことが可能になります。
これは今後数ヶ月の間に実現を目指している、私たちのソフトウェアの次なる進化であり、プリントファームの完全自動化に向けた大きな一歩になると考えています。
現在、オーダーキューシステムがジョブを自動で各プリンターに振り分ける仕組みになっているため、
従業員の作業効率が大幅に向上し、プリント可能な稼働時間も劇的に増加しました。
この自動化により、人手による細かな管理が不要になり、手作業の負担が大幅に軽減されているのが大きな強みです。
結果として、より多くの製品を、より少ない工数でプリントできる体制が整いました。
ソフトウェア?はい、自作しています。
そのソフトウェアにはどんなストーリーがあるのでしょうか?ご自身で開発されたのですか?
はい、このソフトウェアには少しユニークな背景があります。というのも、私自身が開発したものなんです。
ただし、私は元々プログラミングやソフトウェア開発の経験は一切ありません。
でも、最近登場しているAIツールの進化が本当に素晴らしくて、コードを書けない私でも開発が可能になりました。
実際のコードは自分で一から書いたわけではなく、Claude、ChatGPT、GrokといったAIツールを活用しながら構築していきました。
それらを組み合わせて、ゼロから完全にオリジナルのソフトウェアを組み上げることができたんです。
まさに、AI時代ならではのものづくりの形だと思っています。
このソフトウェアの始まりには、ちょっとした“物語”があります。
もともと私は、プリントファームをより効率化し、1日あたりのプリント時間を増やすことを目指していました。
そのための手段として、最初は外部のソフトウェア会社に依頼して、プリンターを接続し、一部の機能を自動化できるようなツールを導入しようとしました。
しかし残念ながら、その会社は契約内容や約束していた機能を満たすことができず、期待していた結果は得られませんでした。
結局、かなりの金額を投資したにもかかわらず、実用にならないソフトウェアだけが残ってしまい、大きな問題を抱えることになったんです。
「お金は出したのに、何も得られていない」――そこが、このプロジェクトの出発点でした。
そこで私は、もう外注や他人に頼るのではなく、「自分でやろう」と決意しました。
まずは数時間かけて、AIツールの使い方や開発に必要な基本的なことを学びました。そしてその後の2週間で、完全にゼロから自分のプリントファームに最適なソフトウェアを構築することに成功したんです。
その結果、ファームの運用効率が劇的に向上し、実際の業務にも大きなインパクトをもたらしてくれました。
この経験は、「今の時代、本当に必要なツールは、自分の手で作れる」ということを実感させてくれるものでした。
AIなしでこのソフトウェアを作ることを想像できますか?
ああ、AIがなければ絶対に実現しなかったと思います。これは本当に貴重な学びの経験であり、旅でもありました。素晴らしいのは、Prusaがオープンソースだからこそ、APIにアクセスでき、プリンターの制御方法を把握できたことです。これにより、プリンターと通信し制御できるソフトウェアを自作できるようになり、プリントファームの生産性と出力を飛躍的に高めることができました。
つまり、Prusaのオープンソースの理念と、最近のAI技術の進化が組み合わさったことで、私のように技術的なバックグラウンドやソフトウェア開発の経験が全くない人間でも、ゼロからソフトウェアを作り上げることができました。そしてそのソフトは、私のプリントファームの運営に大きな影響を与えています。
今では、世界中の他のプリントファームにもこのソフトを展開し始めていて、すでに初期ユーザーのいくつかでは非常に良い成果が出ています。本当にワクワクしていて、心から誇りに思っています。
複数台のプリンターを運用している人にとって、すべてを1つの中央ダッシュボードから制御できるというのは、非常に大きなアドバンテージです。時間、エネルギー、材料──すべての無駄を削減できます。
さらに、個別にプリンターを動かしているだけでは、データが何も得られません。トータルのプリント時間、使用したフィラメントの量、ファーム全体の効率などが見えないのです。しかし、すべてのプリンターを制御・記録できるソフトウェアに接続すれば、一気にその情報が得られるようになります。
私は1日あたりのフィラメント消費量、各プリンターの稼働時間、どのプリンターが最も働いていて、どれが非効率なのかをすべて把握できます。それだけで運営に即効性のあるメリットがありますし、得られたデータを分析することで、さらなる業務改善にもつながるのです。
そう、もうUSBスティックを持ってプリンターの間を歩き回る必要はありません。
まさにその通りです。USBスティック方式は、プリンターが1台、2台、せいぜい3台程度であれば問題ありませんが、70台もあると話は別です。
たとえば新しい製品を追加しようとした場合、そのファイルを各USBにコピーして、それを70台分繰り返す必要があります。しかも1台につき数分かかるとなると、それだけで数時間のロスになります。ファイルの更新、修正、差し替えなどが発生するたびにこの作業を繰り返すのは、現実的ではありません。
だからこそ、ネットワークでプリンターを一括管理できるソフトウェアの存在がとても重要なんです。一度設定すれば、全台に一括でファイルを送信・更新でき、ミスも減り、スピードも上がり、全体の効率が飛躍的に向上します。これはプリントファーム運営における大きな転換点だと思います。
このソフトウェアがすべてを変えてくれました。
G-codeファイルを一度アップロードすれば、それをプリントファーム全体に配信でき、70台すべてのプリンターをわずか数クリック・30秒以内でスタートさせることができます。これによって作業時間が大幅に短縮され、毎回USBスティックを70本差し替える必要がなくなったことで、スタッフの負担やモチベーションの低下も防げるようになりました。
全体の効率も格段に上がり、プリントファームの運営がよりスマートで生産的になったと感じています。
ソフトウェアについて将来的な計画や考え、目標はありますか?
はい、ソフトウェアの将来的な計画として、現在の主な目標は「自動排出機能(automatic part ejection)」の構築です。これは、プリントが完了した際に、ソフトウェアがカスタムGコードをプリンターに送り、プリントベッドから造形物を自動で排出し、そのまま次のジョブを自動的に開始できるようにするというものです。現在はこの機能の開発に取り組んでいます。
その次のステップとして、今後1〜2か月以内に「アナリティクスダッシュボード」の開発を目指しています。これにより、プリントファームのオーナーは稼働時間、停止時間、メンテナンス状況を正確に把握できるようになります。また、フィラメントの消費量のトラッキングや、各プリンターのメンテナンススケジュールの管理も可能になります。ソフトウェアから得られた実用的なデータを活用し、それを分析して運用効率の改善に役立てることができます。
さらに将来的には、他のプリンターモデルとの統合も計画しています。つまり、Prusaプリンターに加えて、他ブランドのプリンターを併用している場合でも、すべてを一元的に管理できるようにする予定です。ソフトウェアを通じて、異なるプリンターすべてにGコードを送信し、ファーム全体を一括で管理できるようになります。現在は自分のファームがPrusaプリンターのみで構成されているため、ソフトウェアはPrusa専用ですが、今後は他ブランドにも対応していく予定です。
3Dプリントコミュニティへのメッセージはありますか?
3Dプリントの世界への私のメッセージは、「限界を押し広げ続けてほしい」ということです。私たちは、増え続ける問題のリストに対応するために新しいソリューションを開発してきました。テクノロジーが進化し、新たなソリューションやプリント手法が生まれることで、解決できる課題の幅もどんどん広がっていきます。だから、挑戦をやめないでください。実験をやめないでください。スキルを磨き続けて、次のプリンターを買って、どんどん試してみてください。
探すべきものは「トラクション(手応え)」です――つまり、人々が本当に解決したいと思っている問題に対する解決策を見つけることです。その解決策を見つけたとき、それがいわゆる「プロダクトマーケットフィット」、すなわち製品が実際に問題を解決し、顧客が気に入って継続的に購入したいと思う状態です。私たち3Dプリントファーマーが求めているのはまさにそれです。それこそが“金の卵を産むガチョウ”であり、ビジネスを構築する方法です。
だから、私からのメッセージはこうです――実験を続けてください。試し続けてください。テストを重ねて、試作を繰り返してください。きっと見つかるはずです。
Jakub Kmošek、Štěpán Feik





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