Prusament史上最大の取り組みが始まります。Prusamentスプールをアップグレードします! 新しいスプールは、見慣れたデザインを踏襲しつつも、思わず欲しくなる便利な改良が満載です。たとえば、フィラメント乾燥時の耐熱性向上、リフィルのしやすさ、そしてスリムな寸法。そして、ぱっと見では分からない最大の新機能がこちら――完全に再利用可能でオープンソースのNFCタグです。
OpenPrintTag NFCにより、私たちは“スマートスプールの標準”を提案します。ブランドやエコシステムの垣根を越えて動作するよう設計され、誰でも無料で使え、自由に拡張でき、オープンに開発へ参加できます。語るべきことはたくさんあります。さっそく見ていきましょう!
ご存じない方のために補足すると、NFC(近距離無線通信)は、数センチの距離でデジタル機器同士が通信する技術です。非接触決済やキー・カードなどに広く使われています。
なぜスマートスプールが必要なのか
この10年で、3Dプリンターは複雑なホビーキットから、誰にでも扱いやすいツールへと進化しました。しかしプリンターが賢くなる一方で、ワークフローの中核であるフィラメントの扱いは、いまだに“手作業”に頼る部分が多いのが現実です。工程全体を本当にスムーズにするには、スマートスプールが必要です。
最も分かりやすいメリットは、素材と色の自動認識です。これだけで面倒なメニュー操作やヒューマンエラーの多くを排除できます。たとえば、黒いPETGをPLAと勘違いして使ってしまうのはよくあるミスで、プリントが台無しになります。スマートスプールなら、このリスクはそもそも発生しません。プリンターが装填された素材を把握しているため、ユーザーが誤ったプロファイルを選ぶことができないのです。
さらに、スマートスプールは残量管理の問題も解決します。勘に頼る必要も、スプールを量る必要も、朝になって“途中でフィラメント切れで停止していた”という悲劇もなくなります。
プリントファームやプロ用途では、可能性はさらに広がります。デジタルな材料ライブラリ、リアルタイムの在庫管理、そして完全なトレーサビリティ――どのモデルを、どのスプールでプリントしたのかを正確に追跡できる世界です。スマートスプールが切り拓くのは、まさにこのレベルの自動化と信頼性です。
いまの「スマート」スプールの現実
市場の大半のスプールは、そもそもプリンターと通信できません。一部にはスマートスプールの試みもあります。刺激的なものもあれば、ロックインされたもの、提案段階にとどまるものも。とはいえ、業界で実質的な標準を打ち立てられるだけの影響力を持つメーカーが、これまで本格的に市場導入した例はありませんでした。私たちはコミュニティ全体で普遍的に使える仕組みが既に存在しないか徹底調査しましたが、各ソリューションにはいくつもの問題が見つかりました。
多くはブランド固有・プロプライエタリです。各社が独自仕様を使い、なかにはユーザーがデータを書き換えられないものまであります。これは2Dプリンターの世界でも身に覚えがありますよね――インク(やトナー)はブランド/製品ごとに別物で、結局そのメーカーの専用品しか選べない。そして誰もそれを好みません。
Source: imgflip.com
その一方で、3Dプリントのコミュニティは“ひとつの標準を皆で使う”ことの価値を何度も証明してきました。例えば、あるブランドは1.75mm、別のブランドは2.0mm、その次は1.0mmのフィラメントしか使えなかったら?――そんなの無理ですよね。でも、いまのスマートスプールの状況は、それにかなり近いのです。なぜ一つの標準に統一できないのでしょうか?
もう一つの問題はクラウド依存です。多くのスマートタグが実質IDに毛が生えた程度で、フィラメント識別のためにメーカーのデータベースやクラウド接続が必須になっています。インターネットに繋がらなければ、タグはただの無用の長物です。
最後に、一部のメーカーは暗号化・電子署名付きのRFIDタグを採用しており、作成できるのはそのメーカーだけ。極端な場合、署名付きタグ以外はプリンターが動作しない設計になっていることもあります。こうなるとユーザーはコストに関係なく、そのメーカーの製品しか選べません。私たちは、こうしたやり方は3Dプリントの世界にふさわしくないと考えます。
このように各社バラバラのアプローチが混在しているのが、残念ながら現在の現実です。標準は多すぎる――だからこそ、私たちは統一する時だと考えています。
OpenPrintTag:すべてのスマートスプールのためのNFC標準
私たちは、現状の問題を根本から解決するための完全でオープンな標準を提案します。OpenPrintTagは、オープン性/オフライン機能/再利用性を土台に、業界全体の“決定版”となるようゼロから設計しました。
“オフライン前提”の設計
最大の違いは、タグが書き込み可能であること。単なるID格納タグではなく、重要なデータを直接書き込めます。素材、色、主要プリント設定、残量などの必須データはすべてタグ上に保存。プリンターがスプールを認識するのにWi-Fiやクラウドは不要です。
100%オープンソース
OpenPrintTagは公開規格で、無償で使用でき、自由に拡張でき、ブランド横断で動作します。誰でもライセンス料なしで活用・実装可能です。これこそ、皆が採用できる“ひとつの標準”に必要な条件です。仕様はすべて specs.openprinttag.org で公開しています。
再利用&書き換えが当たり前
これこそ、スマートスプールが目指すべき姿です。プリントのたびに、プリンターやモバイルアプリが正確な残量をタグへ書き戻せます。勘も、計量も、夜のうちに止まっていた“未完了プリント”も、もう不要。スプールが空になったら、タグを剥がして別のフィラメントに貼り付け、スマホで書き込めばOK。あなたの古いスプールも一瞬で“スマート”になります。ベンダーロックインなし、廃棄物も最小限。
賢いハードウェア&読み取りやすさ
ハードウェア自体も工夫に富んでいます。タグは大きな円形で、どの向きでも読み書き可能。スプールが特定の位置に回転するのを待つ必要はありません。さらに2kgスプール越しでも読み取れるほど高感度なので、タグは1枚で十分――両側に別々のタグを貼るような複雑な構成は不要です。データは常に同期された状態で保たれます。
スマホで即アクセス
タグにはオンライン情報へのリンクも含まれます。一般的なスマートフォンで読み取れば、製品詳細、SDS(安全データシート)、直径の安定性グラフのような高度な情報まで、リッチなページで確認可能。単なるスプールが、インタラクティブな製品ガイドへと進化します。
対象はフィラメントだけじゃない
OpenPrintTagは、業界全体を見据えた標準です。MSLA用のレジンなど、フィラメント以外の材料にも対応。フィラメント専用に設計されてきた過去の試みとは異なり、ユニバーサルな標準を目指しています。
この標準をどう普及させるか
新しい標準には“ニワトリと卵”問題がつきものです。汎用スマートスプールがなければ、プリンターにリーダーを載せる意味がない。読めるプリンターがなければ、メーカーはスマートスプールを作る意味がない。
だからこそ、大手メーカーがまず動く必要があるのです。私たちが、その最初の大きな一歩を踏み出します。
本日以降、すべての新しいPrusamentスプールには、OpenPrintTagが搭載されます。
そして、私たちだけではありません。これは普遍的な解決策であるべきなので、すでに複数の大手ブランドとテスト・導入に向けた協議を進めています。時間とともに、より多くの企業で採用が広がっていくでしょう。
また、他社製フィラメントにも使えるよう、OpenPrintTagのブランクパックをeショップで販売開始します。1パック10枚入りで、価格は 5.99 USD / 5.99 EUR(税込)。すべてのメイカーに、自分たちのスマートスプールソリューション開発をぜひ進めていただきたいのです。別ブランドのプリンターをお使いでも、お気軽にお問い合わせください。喜んでサポートします。
当面の戦略は、まず旧スプールを段階的に終売すること――ちょうどブラックフライデーの割引を活用します。その間に、すべてのPrusamentをOpenPrintTag搭載の新スプールへ切り替え、何百万枚ものOpenPrintTagを市場に流通させます。エコシステムにスプールが広がったら、次はプリンター側のプラグ&プレイ・リーダーの展開が論理的な次の一手となります。多くのPrusa 3Dプリンターに対応するユニバーサルな読取ソリューションは、2026年Q1から準備完了の予定です。その間、PRUSA.appチームも機能追加を継続。まずは来週の月曜日から読み取りに対応し、11月18日には書き込みにも対応します。
新しい標準にふさわしい、新しいスプール
ロッキング機構を備えたコンパクト設計
OpenPrintTagをスプールに組み込むにあたり、内部構造を見直しました。この機会にスプール全体もアップデートしています。スプール面のシグネチャーな六角グリッドはそのままに、その他は一新。外箱もダークカラー×ライトグラフィックの新デザインでひと目で分かるはずです。
新スプールは従来より3mmスリムになり、面にはいくつかの穴を追加しました。スリム化により、幅広いマルチカラー/マルチマテリアルシステムとの互換性を確保。追加の穴は、スプール面のロッキング機構の一部です。
正直に言いましょう。旧方式は完璧ではありませんでした。紙芯には弱点があり、とくに高温乾燥時に材料がわずかに緩んで、条件によってはスプールが分解してしまうことも。そこで、接着剤で固定する、ボルト&ナットで面を固定する――といった対処が必要でしたが、理想とは言えません。新設計では紙芯をやめ、ロッキング機構付きの樹脂コアに変更。スプール全体もリサイクル・ポリカーボネート製にし、100°Cまでの温度でも高い信頼性を確保しました。PEI向けの高耐熱スプールでは、OpenPrintTagを内蔵した状態でも150°Cに耐えます。
Prusamentスプールのリフィル作業。誤って外れないよう、強力なロッキング機構を採用しています。簡単に解錠できる専用ツールも配布中です。
ロッキング機構の大きな利点は、リフィルが圧倒的に簡単になったこと。数秒でフィラメント交換が完了します。紙芯から樹脂コアに変えたことで、リフィル製品も調整しました。スプールに紙芯が不要になったため、リフィルは紙芯なしに。さらに、スプール端に近づきすぎて不具合の原因にならないよう、リフィル重量を1000gから900gに変更しました。これに合わせて価格も比例して見直し、900gで 27.49 USD / 23.49 EUR(税込)です。リフィルは当社eショップで11月中に順次販売します。
ご注意:旧リフィル(紙芯巻き)は新スプールには適合しません。新リフィルを旧紙芯に装着することはできますが、スプール寸法が変わったためクリアランスが大きくなり、エラーのリスクが高まります。新スプールには新リフィルのご使用をおすすめします。
Prusamentとイノベーション
本記事は、Prusa Polymersのチームが、これまで3Dプリント業界になかった大小さまざまな革新を絶えず届けている好例です。私たちはすでに、いくつもの先進的なPrusament素材をリリースしてきました。たとえば最新のPC Space Gradeは、低価格なデスクトップ機でも宇宙空間向けの用途に耐えるよう設計されています。また、放射線遮蔽用途のPrusament PETG Tungsten 75%も登場しました。これらは高度なテクノロジーを誰でも手が届く価格で、そして短い製造リードタイムで活用できるようにする取り組みです。一般的なフィラメントにおいても、私たちは常に“ひと工夫”を加えています。たとえばPrusament TPU 95Aは一般的なエステル系ではなくエーテル系ポリマーを採用し、機械的・化学的耐性を高めています。挙げればキリがありません…。
これからの計画
情報量たっぷりでしたが、価値ある内容だったはずです。私たちが目指す大きな可能性を、しっかりお伝えしたかったのです。もちろん、OpenPrintTagを“投げっぱなし”にするつもりはありません。PrusaSlicerと同じように、エコシステム全体とサポートを段階的に構築していきます。すでにお伝えした通り、多くのPrusa 3DプリンターでOpenPrintTagに対応するユニバーサルな解決策を2026年Q1から提供予定です。また、PRUSA.appでは来週月曜に読み取りへ対応し、11月18日にはタグへの書き込みも可能になります。さらに、この取り組みに賛同し参加するブランドが増えていくことを期待しています。ぜひ仕様を読み、実際に触ってみてください。皆さんの新しく素晴らしいアイデアを楽しみにしています!
Happy printing!











コメントを投稿するにはログインしてください。